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核エネルギーをめぐる私的な冒険・その2

2012年02月17日

 

放射線が人体に与える影響について

放射線を「一度に」大量に浴びると死亡する。
疫学調査から一度に8Sv以上を浴びると100%死亡することはわかっている。


この100%死亡という意味は即死ということではない。

国内に一度に20Svを浴びたとされる被曝者の実例がある。
東海村JCO臨界事故である。

生きている私たちの体は常に細胞が入れ替わっている。
皮膚は垢になって落ちるが、その下からは新しい皮膚が再生されている。
染色体が設計図となって細胞をコピー生産している。

放射線は染色体の異常を引き起こす力を持っている。
この被害者、被曝者の方の場合では、染色体がバラバラに破壊され、皮膚や粘膜は再生されなくなった。
正常だった皮膚が自然劣化して落ちると真皮がむき出しになり、体液が失われ続けた。

この方は中性子線を大量に浴び体内被曝も起こっていた。
体内のナトリウム23が中性子線によりナトリウム24という放射性物質に変化しさらに放射線を発生させた。

詳細は「朽ちていった命―被曝治療83日間の記録」を参照されたい。

では、今の日本の状態はというと、あのときの東海村と同じではない。

正常な自然界に比べて放射性物質は多量にあるが、
原発周辺の年間積算で200mSvと予測される「低線量被曝」の状態である。

長期間にわたり低線量被曝を続けた場合の健康被害について、
マスメディアを通じて我々の耳に入る説は大きく分けて二つある。

ひとつは積算した被曝量によって発がん性などの確率が●●%と提示されるもの、つまり健康被害があるとしている説。

もうひとつは、健康に一切影響がないとしている説。

これはどちらが正しいのか。

結論から言うと、「わからない」のである。

健康被害があるとしている説はICRPモデルの仮説を採用している意見と思われる。
つまり、高線量被曝から類推して、「おそらく」低線量でも健康に影響があるのではないかと考えているのだ。
ICRP(国際放射線防護委員会)は専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う民間の国際学術組織である。


ICRPモデル以外のデータを基に影響度合いを主張する学者も多いが、
我々素人から見ると、「ただいま詳細審議中」という結論しか見えない。

一方、健康被害がないと主張している根拠は、
中国・陽江やイラン・ラムサールのように高自然放射線地域が存在していることだ。
こうした地域では通常地域の3〜5倍の線量が自然に発生しており、
住民は言うなれば自然低線量被曝している。

この地域の健康被害はというと、あくまでも個人差の範囲でしか異常が発見されないのだ。
ただし、高自然放射線地域は世界的に見て多くはなく、
だから低線量被曝は安全であると断定するにはデータが少ない。

現在の日本が置かれている状況、低線量被曝の人体への影響は、正確なところ「わからない」のだ。
誰かが隠蔽しているわけではなく、情報操作をしているわけでもなく、誰も正確にわからないのである。

エラい人もエラくない人も、みんな一緒で、わからない。
この状況をふまえ、我々は一人で決めなければならない。
どこの地域に住むのか、何を食べるのか。
自分と違う決断をする人を責めず、ただ自分の方針を決定し、それに従うしかない。

結果、大きな経済的損失(不安で転居したが十数年後その土地が安全であったことが証明された場合、無駄な費用負担となる)や、
人間関係の軋み(放射線に関する意見の不一致による人間関係の変化)、
あるいは健康を損なうことがあったとしても、誰も代わってはくれない。
自分が引き受けるリスクを認識した上で自己決定し行動するしかない。

これが原発事故が引き起こした現状である。


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